TOP > ブログ > セミナー on KANSAI「マンガ文化と関西」
今回、関西プレスクラブ会員の方のご紹介で、セミナーに参加させていただきました。
タイトルは『マンガ文化と関西』
!?
そう、私めにピッタリな内容ということで特別にご招待いただきました。その方も仕事の合間をぬって、ご一緒していただきました。
なんてやさしい!ありがとうございます。
講師は、牧野圭一氏
京都国際マンガミュージアム国際マンガ研究センター長
兼
京都精華大学マンガ学部長を務めていらっしゃる方です。
僕は、学生時代にマンガ学会なるものに参加したことがありますが、そのときチラッとお見掛けした程度だったんです。
ですが、こうして事業を立ち上げたあと、お会いする機会に恵まれ、うれしく思います(最近、マンガの研究者と久しぶりの対面をよくするなあ)。
お話は、示唆に富むものでした。
以下自分なりに印象にも残ったものを抜粋します。
1、紙芝居
と聞くと…いまさらという感じですが、実際京都国際マンガミュージアム内で実演されています。
これをなぜやるのかというと、単なるノスタルジーではなく、
終戦後、TVも何もないころから物語を人々に伝えるものであったことから、マンガの原点ではないか、ということでした。
もちろんマンガのルーツは、江戸時代にもそれ以前にも遡ることができますが、ここで言いたいのは、メディアがないころから、自ら人々に語りついでいく媒体というところに重点があったように思います。
現在関西には、多数の大学が、マンガ研究を行い積極的に漫画家を教授として採用しています。
例)大阪芸大には、「子連れ狼」の小池一夫や里中満智子。兵庫県西宮には、「ルパンⅢ世」のモンキー・パンチ。宝塚造形大には、「銀河鉄道999」の松本零士。そして、京都精華大にも。
それに対して、関東は、
宇都宮・文星大学にちばてつや。高崎・創造大学。東京工芸大学。東大。
と数は、少なめです。
なぜか?
理屈は簡単で、基本的にマンガを学ぶというのは、大学では扱うものではなかった。そのため、マンガは、サブカルチャーではないか。芸術としては認められないというものがあった。そこで、関西は、東京ほど硬直したものがなかったため(=敷居が低かったため)出来上がり始めた。
作家は、関東にいたとしても…。牧野氏自身も、4時間かけて関西へいらっしゃるそうです。なぜか?そこに、京都精華大学があるから…!?
この大学には、工学博士の高橋教授という方がいらっしゃるそうです。
昔は、マンガ・アニメを見ていたけど途中から見なくなったという研究者が多数いる中で、彼は、根っからの手塚ファンを表明してやまない人だそうです。
で、彼は、そのファン行動を研究の場で表現しています。
どういうことかといいますと、彼は、2足歩行ロボットを作っているのですが…
「なんだそんなことか、ホンダもソニーもロボットは作っているではないか、珍しくはない」と皆さんからのお言葉を頂戴しそうですが…
彼は、スマートに歩くロボットを開発しました。
すなわち、通常、2本足で歩くロボットは、腰をややかがめて歩くのが通例なのですが、彼のロボットは背筋をピシッと延ばして颯爽と歩くそうです。
しかも、通常機械を作る時は、まず、エンジンありきで、それに合わせてボディを作るのですが、教授は、まず型=アトムが先なのです。
すなわち、全てアトムを作るために開発をしているということなんです。
アトムを作るためにやっていると…。牧野氏は、こういった人たちをも、「手塚の弟子」とおしゃました。何も、マンガの世界にだけ弟子は、いるのではない、と。
牧野氏はかの有名な解剖学者の養老孟司氏との対談集を出版されていますが…『マンガをもっと読みなさい―日本人の脳はすばらしい』http://www.amazon.co.jp/マンガをもっと読みなさい―日本人の脳はすばらしい-養老-孟司/dp/4771015333
養老氏は、マンガは、「ルビのある漢字」だそうです。
また、牧野氏は、「饒舌な象形文字」だそうです。
詳しくは、この本に譲りたいと思います。
少しだけいうと、『重』という漢字は、もともと中国から入ってきた時には、「チョウ」「ジュウ」という読みだけでした。ところが、日本では、「おもい」「かさねる」名前としてでは「しげ」「え」などと読みます。
1つの文字に複数の意味が込められているのです。
こういった要素が、マンガにもあると…。
そして、質問タイム…
質問は、3つ。
1)オノマトペ(擬音語・擬態語)の豊富さは海外に比べて日本のほうが多いのではないか?
2)八百万の神の感性がストーリーに反映し、欧米の一神教では表せられない内容まで(正確には、禁忌されているところまで)表現できたているのではないか?
3)少女マンガは日本オリジナルではないか?
でした。
1つ1つだけでも、講演時間を目一杯使うほどの量なので、まとめるのにご面倒をおかけしました。それぞれ、お答えをいただきましたが、基本的に同じ意見だったと記憶しています。まとめるのが難しいので、それを踏まえたうえで持論を展開しますと…。
1)は、フランス語のコミックでは、このオノマトペの翻訳が大きな壁になっています。要は、その文化的背景と語彙が決定的に異なるのです。
例:『しーん』このように、音のないものにもオノマトペが付けられているのが日本のマンガの特徴。マンガの数は、毎週毎月量産されているので、その中でマンガの表現もたくさん作られたということだそうです。
ちなみに、フランス語では、”silence”「沈黙」といって擬音語ではなく『名詞』!?なのです。以前にも、「ぺこり」といった音のないものまで、オノマトペをつけているので訳すのに非常に苦労する(向こうには、こんな表現はないため)というのを聞いたことがあります。
2)は、欧米の文化の根底は、宗教です。イスラムもそうですが、そのほとんどが『一神教』なのです。それに対して、日本は…もうおわかりですよね。
例えば『千と千尋の神隠し』という作品は、欧米にとって普通では受け入れがたい作品であるはずなのです。それが、ドイツ・ベルリンの金獅子賞を獲得し米・アカデミー賞では、長編アニメーション賞大賞を受賞しカンヌでも賞を受けました。
4大映画祭のうち、3つの映画祭で、最高の評価を受けたのです。
これは、本当に信じられないくらいすごいことなのです。
3)実は、アジアの中でも、少女マンガは、日本が初めて普及させたものであると聞いたことがあります。なんせ女性の権利なんて認められたのは、人類の歴史の中でごくごく最近のことなのです。『人権宣言』を世界初で発表したフランスでさえ、女性の参政権が認められたのは、第2次世界大戦後なのです。欧米でも、なかったので…このジャンルは、日本が世界初で開発したことになります。
少女の心のひだまで拾い上げ、表現する。それができるのが、マンガだったわけです。
牧野先生も帰り、質問をしたことを喜んでくださいました。質問があることによって講演内容に幅が生まれたと。
という感じで、マンについてそれほど興味を持っていなかった聴衆(プレスや社長)にもマンガの深さをいくばくか伝わったのではないでしょうか?
帰りのエレベーターでマンガって奥が深いんやなというセリフを聞きました。